
2022年1月に公開されたある映画が話題を呼んでいる。アカデミー賞作品賞を受賞した『コーダ 愛のうた』は、聴覚障害のある両親と兄を支える10代の少女の物語だ。
イラストはこちら "ヤングケアギバー "は意外と身近にいる!?日本における「ヤングケアギバー」10例
日本には、彼女のように学校に通いながら、病気や障害を持つ家族の介護をする子どもたちがいます。彼らは「ヤングケアラー」と呼ばれ、本来受けられるはずの教育が受けられなかったり、周囲と関係を築けず孤立してしまったりと、さまざまな問題に直面しています。
最近では、祖母を20年間介護した俳優の松村雄基さん、山崎育三郎さん、お笑い芸人の金太郎さんなど、複数の芸能人がヤングケアラーのケアに携わっています。祖母を20年間介護した俳優の松村雄基さん、山崎育三郎さん、お笑い芸人のキンタローさんら多くの著名人が、子どもの頃にヤングケアラーだったことを告白し、この言葉自体に注目が集まっています。
ヤングケアラーとは?
要介護状態にある家族の介護を大人と同じように引き受け、介護だけでなく、家族の世話や家事、心のケアなどを行う18歳未満の子どものことです。
ユースケアラーとは?
18歳から概ね30代までの介護者のこと。提供する介護はヤングケアラーと同様ですが、より責任感の強い介護を行うことがあります。
今年、厚生労働省が初めて小学生のヤングケアラーについて調査したところ、小学6年生の約15人に1人が該当していることがわかりました。
若年介護者が出現する背景には、家族の中に介護のための時間を確保できる人がいないことが挙げられます。少子高齢化による一人っ子の増加、母子家庭の増加、専業主婦の減少など、理由はさまざまだ。
少子高齢化により単身世帯が増加し、専業主婦が減少している。専業主婦が減少し、家庭内で成人介護をする人が減少している。高齢者の介護は、猫ではなく、子どもの手を借りるしかない。
介護をトータルにサポートする一般社団法人日本介護福祉士会では、このように指摘する。
介護が重なると、他人がおろそかになる
若い介護者は、18歳未満の子供と定義されています。学校に通い、教育を受け、基本的な人間関係を形成していく過程で、介護が後回しにされることがあります。
また、成人以上の介護者にとっても状況は深刻です。
厚生労働省の調査によると、大学3年生の約10人に1人が「家族に介護してもらっている」「過去に家族がいた」と答えています。
若者が介護をする年代は、本来、学業や仕事に専念している時期です。家族の介護で手がふさがると、将来、昇進や恋愛、結婚といった大きなチャンスを逃してしまう危険性がある。
実際、勉強する時間がなくて大学進学をあきらめる子もいます。また、進学せず就職する場合でも、介護を生活の中心に考えれば、どうしてもパートタイムで働くことになる。きちんとした就職先がないと、年金がもらえないなど、自分の将来の生活にも深く影響します」(日本介護事業者連盟)。
貴重な時間が介護のために失われているのです。
心身ともに未発達な子どもや、社会経験の少ない若者が、介護の負担を負わなければならない。その現実は厳しい。
父子家庭の中学生Aくんの場合
中学生のAさんは、父親と二人暮らし。小学生の頃から6年間、祖母の介護を続けている。父親は夜勤のある仕事をしており、家族のことにはほとんど関わりがない。幼い頃からお世話になっている祖母のことが大好き。夜間のトイレ介助、病院への付き添い、薬の管理、デイサービスへの送迎などを繰り返し、祖母を支えている。
教師が祖母に声をかけたところ、祖母が勉強の遅れをとり、遅刻、早退、欠席をしていることが発覚しました。自治体に連絡し、ケアマネジャーと面談した結果、祖母はショートステイと入院の後、老人ホームに入所することが決まりました。
母子家庭の小学生Bさんの場合
担任の先生が状況を問い合わせたところ、精神疾患を持つ母親の介護、弟や妹の保育園の送迎、その他の家事を行っていたことが分かりました。
働けない母親は髪を切り、昼夜逆転の生活をしており、子どもたちは疲れ果て、栄養失調に陥っていた。学校側は、Bさんが健康管理できるように小児科医の受診を手配するなど、Bさんの健康状態や状況を把握しようとし、SSW(スクールソーシャルワーカー)が負担軽減のために自治体のサービスと結びつけ、生活保護や訪問介護、福祉サービスの利用につなげていったそうです。
介護によるストレスも問題行動の原因になる。
また、ある母親が、小学6年生の長女Cさんの問題行動を養護教諭に相談した事例があります。養護教諭が事情を聞くと、Cさんは仕事ばかりの母親に代わって、障害のある弟の排泄や食事、入浴の介助に加え、妹の世話をしていることがわかりました。そのような負担のストレスから、独り言を言ったり、怒ると物を壊したりするようになりました。
学校から小児科医の受診を勧められ、介護負担によるストレス症状が確認された。学校側は、Cさんが介護から解放されるよう、当面は祖父母と暮らすことを勧め、Cさんの症状は徐々に改善されました。
ヤングケアラーの子どもたちは、自分が置かれている状況に気づいていないので、周囲にSOSを出すこともなく、もちろん福祉制度も知りません。介護という名のもとに、自分たちがないがしろにされていることにも気づかない。
毎日3時間程度の睡眠、深まる孤立感。
かつて若者の介護に携わり、その様子を漫画にし、ウェブ上で公開している里見さんは、「休みの日は、一日中過ごしています。
休みの日は、一日中、介護の仕事をしていることになる。大学の講義中であろうと関係ない。家にいる祖母が薬を過剰摂取して病院に運ばれたり、外に徘徊して警察に保護されたりと、突然の呼び出しで学業ができないこともありました。社会人になっても同じような状況でした。もっと勉強して働きたいと思いました」(里美さん、以下同)。
里美さんが通っていた学校は、祖母の喜美子さんの家に近かったため、同居人として一緒に暮らすようになった。喜美子さんがアルツハイマー型認知症になってからは、近くに頼れる家族がいないため、祖母の介護を引き受けることになった。喜美子さんの病状が悪化するにつれ、深夜の徘徊やおしゃべりが増え、里美さんは連日、睡眠不足に悩まされた。
私が寝ている間に、おばあちゃんが階段から落ちないか心配で心配で......」。毎日3時間くらいしか眠れなかった。日中は眠くても、電車の中で仮眠をとるしかなかった。当時は、ぐっすり眠れることに憧れていたんです」。
心身ともに限界に達した介護の経験を整理するために、漫画を描き始めたという里見さん。介護を終えた今、里見さんはどう考えているのだろうか。
介護をしたことを否定的に考えることはありません。ただ、周りの人は『頑張れ』とか『きっと人生に役立つよ』とか言うだけで、あまり寄り添ってくれなかったんです。誰とも分かり合えない孤立した状態がつらかった。だんだん、「なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないんだろう」と思うようになりました。肉親にそんな思いを抱いている自分が嫌になりました。"
さとみさんに任せきりの両親
さとみさんの両親が介護を担うということはなかったのだろうか。彼女は首を振る。両親とは話せば話すほど心が離れていくのを感じたという。
「親は『家族なんだからやってほしい』と言うばかりで私に任せきり。私も自分の意見を押しつけるばかりで……お互いがお互いの話を受け止めて話し合うことができなかった、それが問題だったと思います」
この経験からさとみさんは、介護者を孤立させないことが負担を減らすことにつながると強く感じているという。
「介護者を否定しないで、その人の話を聞いて、見守っていてほしい。助けを求められたら手を貸してあげてほしい。彼らに必要なのは協力だと思います。私は家族と一緒に介護をしたかった」
さらに、10代のころから祖母を介護していた元ヤングケアラーの男性はこう語る。
「僕は祖母の介護と引き換えに、友達、学業、職、そして時間を失った。看取った後、知人からは『おばあちゃんは孫に介護してもらって幸せだったね』と言われたけれど、はたしてそうだったのか。僕が本当に欲しかったのは、僕自身の生活と、祖母が幸せだと思える生活の両立だったと思う」
大切なのは、否定せずに寄り添うこと
ヤングケアラーを巡るさまざまな問題を解決する第一歩は「ひとりぼっちにさせない」。
家族でなくても、介護する子どもの通う学校の教員や地域の住民など、信頼できる大人が状況を把握して話を聞いてあげることがもっとも大切。
「まずは周囲の人たちがヤングケアラーの存在を認識すること。もし自分の周りにヤングケアラーかもしれない子どもがいたら、声をかけること。助けが必要であれば専門機関などへの相談を」(日本ケアラー連盟、以下同)
ただ、問題が難しいのは、話を聞くなかでケアをしている事実を決して否定的に取り上げてはいけないという点。介護者たちにとっては、家族との結びつきを強く感じたり、判断力が磨かれたりと、介護によって得られるものもあるからだ。
「自分しかいないんだ、という思いでケアをしている人もたくさんいるし、ケアをしている日常がアイデンティティーにもなっています。それを否定するようなことは口に出さないようにしてほしい。その子の気持ち、置かれている状況、そして立場を第三者がよく理解する必要があるのです」
進学先が祖母の家と近かったことで祖母との同居がスタート。
その後、大学院生のときに祖母が認知症を発症したため、就職後も介護を続ける。現在、祖母は施設に入居中(コロナの影響で面会ができていない状況)。
「たくさんの書籍を読み、自分は介護に必要以上に苦しんでいたと気づいた」という経験を漫画で伝え、一例として役に立ちたいと、孫・さとみ目線で描く“ほぼ実話”の介護マンガをTwitterで連載中。
一般社団法人日本ケアラー連盟
日本に「ケアラー支援法」の制定を実現するためにロビー活動を行っている団体。ケアラー(家族等無償の介護者)、ケアラーを気遣う人、ケアラーの抱える問題を社会的に解決しようという志をもつ人が集い、すべての世代のケアラーがその人生を地域や社会全体で支えるしくみづくりをめざしている。